弟矢 ―四神剣伝説―
乙矢のために用意されていたのは黒鹿毛の馬だった。

美作の関所で調達し、新蔵とふたりで駆けつけたときに乗っていた馬だ。おまけに、先ほど散々悪態を吐いた新蔵が手綱を引いている。


「――死ぬなよ」


そのひと言だけで他には何も語らず、新蔵は黙したままだ。


「わかった」


同じく短い返事をすると、乙矢は鐙(あぶみ)に左足を掛け、鞍を掴むと一気に跨る。

切れの良い掛け声と共に、乙矢を乗せた黒鹿毛は一瞬で森の中に消えたのだった。


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