弟矢 ―四神剣伝説―
宗次朗が馬を止めたのは、深い森の中だった。

昨夜、弓月は自分で思ったより上流まで一矢を追いかけていたらしい。長瀬に聞いただけで、乙矢はこれほど遠くまで無事に来ることができるだろうか?

弓月は不安を覚えた。


「そのような顔をせずともよい。勇者の到着を待たず、遊馬の姫君を殺すようなことはせぬ」


弓月の心配そうな表情が、我が身を案じてのことと思ったのか、宗次朗はそんなことを口にする。


だが、弓月が案じていたのは乙矢の身だけだった。彼はすでに、充分過ぎるほどの深手を負っている。自分にもう少し早く『青龍の主』となるべき自覚が芽生えていたなら。乙矢に掛かる負担を、わずかでも軽減することができたであろう。

そう思うと、弓月は悔やまれてならなかった。


「まさか、あなたが皆実宗次朗殿とは……。なぜ、『朱雀』の勇者が、このような愚かな真似をなさったのです!」


弓月は顔を上げると、人質らしからぬ凛然とした態度で宗次朗を叱責した。


「決まっておる。『朱雀』の勇者だからだ」


宗次朗の返答は極めて簡潔なものだった。


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