弟矢 ―四神剣伝説―
「勇者の血を……まさか、そんな理由で我が子を!」
「元々、望んで得た妻や子ではない。爾志和鳴――乙矢の父に、押し付けられた女だ」
宗次朗は吐き捨てるように言った。
乙矢の父の名を口にした時の宗次朗の顔。弓月にそれは、個人的な恨みや憎しみを伴う表情に見て取れた。
「それだけ、ですか?」
「どういう意味だ?」
「和鳴殿の名を呼んだ時、あなたの声は憎しみに満ちていた。あなたは勇者でありながら、その思いに心を奪われ、鬼の声を聞いてしまったのではありませんか? 宗次朗殿!」
時折、硫黄の匂いがきつくなる。温泉の源が近くにあるのかも知れない。弓月はふと、そんな考えがよぎった。
その匂いを嗅ぐと、生温い夜風のそよぐ中、同じ場所で一矢に詰め寄ったことを思い出す。
あれからまだ、半日も経ってはいないのに……短い間に、どれほどの真実を知ったのだろう。
「何も……だが『朱雀』に宿る鬼は最強であれと私に望む。私が戦う道を選んだのは、鬼に選ばれたから」
「嘘をつけ……父上を恨むのは、姉上を妻にと望んで断わられたからであろう……」
声のした方向を、宗次朗と弓月は同時に振り向いた。
まるで気配を感じなかった。そのことにふたりは驚きを隠せない。弓月は乙矢の名を呼ぼうと口を開いたが……それは意外にも、違う男の名になってしまった。
「……か、かずや、どの?」
「元々、望んで得た妻や子ではない。爾志和鳴――乙矢の父に、押し付けられた女だ」
宗次朗は吐き捨てるように言った。
乙矢の父の名を口にした時の宗次朗の顔。弓月にそれは、個人的な恨みや憎しみを伴う表情に見て取れた。
「それだけ、ですか?」
「どういう意味だ?」
「和鳴殿の名を呼んだ時、あなたの声は憎しみに満ちていた。あなたは勇者でありながら、その思いに心を奪われ、鬼の声を聞いてしまったのではありませんか? 宗次朗殿!」
時折、硫黄の匂いがきつくなる。温泉の源が近くにあるのかも知れない。弓月はふと、そんな考えがよぎった。
その匂いを嗅ぐと、生温い夜風のそよぐ中、同じ場所で一矢に詰め寄ったことを思い出す。
あれからまだ、半日も経ってはいないのに……短い間に、どれほどの真実を知ったのだろう。
「何も……だが『朱雀』に宿る鬼は最強であれと私に望む。私が戦う道を選んだのは、鬼に選ばれたから」
「嘘をつけ……父上を恨むのは、姉上を妻にと望んで断わられたからであろう……」
声のした方向を、宗次朗と弓月は同時に振り向いた。
まるで気配を感じなかった。そのことにふたりは驚きを隠せない。弓月は乙矢の名を呼ぼうと口を開いたが……それは意外にも、違う男の名になってしまった。
「……か、かずや、どの?」