弟矢 ―四神剣伝説―
「だが、私は勇者だ。――『青龍の鬼』が、左手一本でどうしようと言うのだ?」


宗次朗は挑発めいた台詞を口にする。

だが、一矢にはもう、それに乗る余裕すらなかった。


「ひとつ……思い出したことがある。私が強くありたかったのは乙矢を守るため……とんだお笑いだ」


それは、弓月にも身に覚えのある感覚だ。

『朱雀』を抜いた時、弓月は乙矢に向かって「退かねば貴様を斬る」と言った。誰のために神剣を抜いたのか……乙矢を自らの手で殺すなど、本末転倒もいいところだ。


こうして話す間にも、一矢の目は濁り始めている。

さすがに、これ以上意識を保つのは無理であろう。弓月はそう判断した。


「『青龍』をこちらにお渡しください、一矢殿、どうか」

「弓月殿……『青龍』は私を勇者にしてくれるそうだ。最強の力を与える……と。だが、鬼も勇者も、どうでも良くなった。私は、兄矢(はや)の役目を果たす……弟矢(おとや)に繋ぐのみ!」


一矢は鬼となるべく、自ら『青龍一の剣』を抜いた。


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