弟矢 ―四神剣伝説―
弓月は必死になって言った。

これ以上、乙矢の心を傷つけたくなかった。誰より、勇者の血に振り回されたのは乙矢だ。彼自身は望みもしないのに『白虎の主』とされ、憎しみの的にされたのである。 


勇者として、目覚めたくなどなかったであろう。


優しい姉や強い兄に囲まれて、皆が幸福でいられる人生を、乙矢は歩きたかっただけなのに……。


乙矢を思う余り、弓月は言葉を失う。


その直後、逼迫した声が彼女の耳に聞こえ――


「伏せろっ!」


何が起こったのかわからぬまま、弓月は乙矢に抱き締められ崖の上を転がった。


見上げたふたりの瞳に映っていたのは、逆光を背に立つ一矢であった。


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