弟矢 ―四神剣伝説―
風が軋む。


鬼の気配を感じる。


乙矢は剣を持つ左手で、弓月の身体を森に向かって突き飛ばした。


「キャッ!」


――我が主よ。鬼を斬れ。


神剣に宿る鬼の声が乙矢の全身を駆け抜けた。


命じられるまま、『白虎』を掴む左手に力を入れる。


だがその時、乙矢の胸に正三の声が響いた――


『斬れぬ、では困る。斬らぬ、と言うなら……神剣の主となってから言え』


斬らねばならない……斬るべきなのだ……だが。



……カシャン……



乙矢の足元に残光を纏った『白虎』が転がった。


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