弟矢 ―四神剣伝説―
「なあ……弓月殿は言ったよな。俺の思うままにしていい。どちらにでもお供いたしますって」
「そ、それは……」
不意に、崖の上で叫んだ言葉を復唱され、弓月は頬を赤らめる。
「だったら、新蔵や長瀬さん、それに……正三も一緒に、東国まで帰っちゃくれないか?」
「それは……私とは二度と会えなくとも構わぬ、と?」
弓月は拗ねて甘えた声を出し、乙矢ににじり寄った。頬を膨らませ、上目遣いで見上げる。それは乙矢にとって初めて見る弓月の顔。思わず、乙矢も立場を忘れそうになる。
慌てて咳払いをすると、乙矢は弓月を宥めるように左手を彼女の肩に置いた。
「そうじゃないって。でも……宗次朗さんや一矢のことを思い出すんだ。俺は――勇者の役目を果たせたんだろうか、って」
「一矢殿が仰ってました。乙矢は弱い……だから強くなれたんだ、と」
「いつ?」
「乙矢殿が来られる少し前……『青龍一の剣』を抜かれてすぐのことです」
一矢は最後に「だから『白虎』は乙矢を選んだ」そう言った。
自分のせいで人が死んだと言っては泣き、誤って敵を殺したと言っては泣く。乙矢は泣きながら、それでも、震える手で神剣を抜いた。
乙矢が乗り越えたものの大きさは、一矢や宗次朗の比ではないはずだ。
「そ、それは……」
不意に、崖の上で叫んだ言葉を復唱され、弓月は頬を赤らめる。
「だったら、新蔵や長瀬さん、それに……正三も一緒に、東国まで帰っちゃくれないか?」
「それは……私とは二度と会えなくとも構わぬ、と?」
弓月は拗ねて甘えた声を出し、乙矢ににじり寄った。頬を膨らませ、上目遣いで見上げる。それは乙矢にとって初めて見る弓月の顔。思わず、乙矢も立場を忘れそうになる。
慌てて咳払いをすると、乙矢は弓月を宥めるように左手を彼女の肩に置いた。
「そうじゃないって。でも……宗次朗さんや一矢のことを思い出すんだ。俺は――勇者の役目を果たせたんだろうか、って」
「一矢殿が仰ってました。乙矢は弱い……だから強くなれたんだ、と」
「いつ?」
「乙矢殿が来られる少し前……『青龍一の剣』を抜かれてすぐのことです」
一矢は最後に「だから『白虎』は乙矢を選んだ」そう言った。
自分のせいで人が死んだと言っては泣き、誤って敵を殺したと言っては泣く。乙矢は泣きながら、それでも、震える手で神剣を抜いた。
乙矢が乗り越えたものの大きさは、一矢や宗次朗の比ではないはずだ。