弟矢 ―四神剣伝説―
神剣(ちから)が無ければ誰も守れない。だが、神剣(ちから)だけでは自分すら守れない。


そして最後に、乙矢はその神剣(ちから)すら凌駕した。


一矢の鬼の剣を止めたのは、『白虎』の勇者ではなく、乙矢自身であった。



「弓月殿……もし俺のことを少しでも信じてくれるなら、どうか、東国に戻ってくれ。その――む、迎えに行くから、さ」


それは、今の乙矢に言える精一杯の言葉だった。


「本当に? 絶対に死なないと約束してくれますか?」

「す、する。そん時は、牢破りでも島抜けでもして、会いに行くから。ふたりで逃げようぜ。弓月殿が守ってくれるんだろ?」


乙矢の言葉は半ばヤケクソに近い。

こうでも言わなければ弓月が引きそうもないと思ったからだ。そして、乙矢の優しさは弓月に痛いほど伝わり……。

弓月は乙矢を信じると決めている。

例えそれが、どれほど荒唐無稽な話であったとしても。


弓月は微笑み――ふたりの影がほんの一瞬重なった。


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