弟矢 ―四神剣伝説―
第一章 宿場にて
一、乙矢―おとや―
不意に、海に叩き込まれたかのような錯覚に、乙矢は目を開けた。
「いいかげんに目を開けやがれ、この、クソガキ!」
その台詞と同時に、桶が飛んできた。乙矢はそれを頬で受け、皮膚が裂ける。俯く顎の先から水滴に混じって、血が滴り落ちた。後ろ手に縛られているので、ほとんど身動きが取れないのだ。
どうやら、そこは海ではなかった。頭から水を掛けられたらしい。彼はようやく、自分の置かれている状況を思い出した。
ここは西国の、街道沿いにある宿場町だ。
女郎宿が並ぶ路地裏で、乙矢は数人の男たちに袋叩きに遭っていた。その衝撃で、一瞬意識が飛んだらしい。
(――夢か、なんだってまた)
妙になつかしい、息苦しい記憶が、昨日のことのように甦り、乙矢は顔をしかめる。
「いいかぁ、坊主。今度、うわまえを撥ねやがったら、こんなもんじゃすまねえぞ。いいなっ!」
そう言いながらも、男たちは、乙矢を代わる代わる蹴りつけた。着物は泥と血で汚れ、ぼろぼろだ。散々甚振り抜いて、やっと乙矢を開放してくれた。
男たちが立ち去った後、乙矢の元に女が駆け寄る。
「ごめんよ乙矢さん。あたしのせいで……」
「いいかげんに目を開けやがれ、この、クソガキ!」
その台詞と同時に、桶が飛んできた。乙矢はそれを頬で受け、皮膚が裂ける。俯く顎の先から水滴に混じって、血が滴り落ちた。後ろ手に縛られているので、ほとんど身動きが取れないのだ。
どうやら、そこは海ではなかった。頭から水を掛けられたらしい。彼はようやく、自分の置かれている状況を思い出した。
ここは西国の、街道沿いにある宿場町だ。
女郎宿が並ぶ路地裏で、乙矢は数人の男たちに袋叩きに遭っていた。その衝撃で、一瞬意識が飛んだらしい。
(――夢か、なんだってまた)
妙になつかしい、息苦しい記憶が、昨日のことのように甦り、乙矢は顔をしかめる。
「いいかぁ、坊主。今度、うわまえを撥ねやがったら、こんなもんじゃすまねえぞ。いいなっ!」
そう言いながらも、男たちは、乙矢を代わる代わる蹴りつけた。着物は泥と血で汚れ、ぼろぼろだ。散々甚振り抜いて、やっと乙矢を開放してくれた。
男たちが立ち去った後、乙矢の元に女が駆け寄る。
「ごめんよ乙矢さん。あたしのせいで……」