弟矢 ―四神剣伝説―
「女の割に中々のものだな。だが、女の役目は、閨の相手と子を産むこと。程ほどにしとかねば、命がないぞ」


四人は一斉に振り返る。


そこには、百騎近くの敵兵を従え、仰々しい甲冑に身を包んだ一人の男がいた。どうやら、先刻の声の主らしい。

年の頃は三十代半ば。左頬から顎に掛けて刀傷があり、その容姿が余計に凄みを出していた。そして、新蔵に十年ほど歳を取らせたような体躯。若い体には敵わないだろうが、それにお釣がくるほどの経験を、顔の傷が物語っていた。

問題は、その気配であろう。

弓月の体を舐めるように見る視線は、略奪・陵辱の類を求めているのが明らかだ。男の全身から沸き立つ腐臭は、残忍な殺戮を重ねてきた人間のそれであった。


「武藤……小五郎」

「え?」


乙矢は、男の名を小さく呟いた。生涯、忘れる事のできない顔だ。しかし、情けないことに膝の震えが治まらない。


弓月は何も聞かぬまま、スッと乙矢の前に立つ。その横に、凪も足を揃えた。


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