弟矢 ―四神剣伝説―
「――死んだのか?」
「胸を突いたのです。出血も多く……毒もすぐに心の臓に回ってしまいました」
凪は努めて淡々と、抑揚をつけずに答えた。それで乙矢が、女郎だから見捨てたのだ、と怒り出すのもやむを得ないと思っていたが……。
「てっきり、俺も置いて行かれると思ったんだけどな」
「我が遊馬一門の姫を庇ったあなたを、見捨る者はおりません。とくに弓月どのは、寝ずに看病に当たっておいででした」
その凪の言葉に、乙矢は夢の中の声を思い出した。
――死んではいけません、意識をしっかり持って、目を開けるのです。
乙矢は自分の額に触れる冷たい手を感じていた。
それは幼い頃、熱に魘されるたびに、枕元で看病してくれた母の手と同じだった。普段は温かい母の手が、高熱の時は冷たく感じた。
そんなふうに優しく触れられたのは何年ぶりだろう。甘く涼やかな声が耳の奥にいつまでも響いていた。
あの手は、声は、弓月のものだった。忘れかけた何かが胸の奥で騒ぐようだ。
「なんでだよ。俺のせいじゃないか! 庇ったんじゃなくて、俺のせいで狙われたって、そう言えばいいんだ。おゆきもそうだ。例えあんな場所で体を売ってたって、楽しそうに笑って生きてたんだ。それなのに……俺が関わったばっかりに」
「胸を突いたのです。出血も多く……毒もすぐに心の臓に回ってしまいました」
凪は努めて淡々と、抑揚をつけずに答えた。それで乙矢が、女郎だから見捨てたのだ、と怒り出すのもやむを得ないと思っていたが……。
「てっきり、俺も置いて行かれると思ったんだけどな」
「我が遊馬一門の姫を庇ったあなたを、見捨る者はおりません。とくに弓月どのは、寝ずに看病に当たっておいででした」
その凪の言葉に、乙矢は夢の中の声を思い出した。
――死んではいけません、意識をしっかり持って、目を開けるのです。
乙矢は自分の額に触れる冷たい手を感じていた。
それは幼い頃、熱に魘されるたびに、枕元で看病してくれた母の手と同じだった。普段は温かい母の手が、高熱の時は冷たく感じた。
そんなふうに優しく触れられたのは何年ぶりだろう。甘く涼やかな声が耳の奥にいつまでも響いていた。
あの手は、声は、弓月のものだった。忘れかけた何かが胸の奥で騒ぐようだ。
「なんでだよ。俺のせいじゃないか! 庇ったんじゃなくて、俺のせいで狙われたって、そう言えばいいんだ。おゆきもそうだ。例えあんな場所で体を売ってたって、楽しそうに笑って生きてたんだ。それなのに……俺が関わったばっかりに」