弟矢 ―四神剣伝説―
凪から、乙矢の自信のなさは異常だと、弓月は聞かされた。確かに、謙遜にしてはいささか度が過ぎる。
一矢は神童と呼ばれ、長じては剣聖と称された。そんな兄と自分を比べ、卑下する気持ちはわからないではない。だが、乙矢とて勇者の血を引いている。咄嗟の時に剣を掴めるほど、爾志流の稽古を積んで来ていた。弓月を助けた時の剣捌きが何よりの証拠。
弓月がそれを伝えると、
「稽古はした。才能で一矢に劣る分、稽古で補えと父上から散々言われたからな。でも、駄目なんだ。最初に河原で会った時、新蔵、だったよな。あんなふうに殺気をぶつけられると……怖いんだ」
乙矢は足を崩し、そのまま腰を下ろした。まるで親にはぐれた迷い子のように、心細げにうな垂れ、ボソボソと呟く。
弓月はその姿を見て、思わず抱きしめ、慰めてあげたいという衝動に駆られた。
しかし、「乙矢殿は私の義理の弟」――自分で口にしたその言葉は、彼女の心に重く圧し掛かる。
危機に陥れば誰だって恐怖を感じて当然だ。それを振り切って自らを奮い立たせ、立ち向かわせる原動力を勇気と呼ぶ。
(乙矢殿に足りないのは勇気なのだろうか?)
だが、矢に射抜かれることがわかっていても微動だにしなかった。或いは、震える手で弓月の脇差を抜いた。
そんな乙矢に勇気が足りないとは思えない。
一矢は神童と呼ばれ、長じては剣聖と称された。そんな兄と自分を比べ、卑下する気持ちはわからないではない。だが、乙矢とて勇者の血を引いている。咄嗟の時に剣を掴めるほど、爾志流の稽古を積んで来ていた。弓月を助けた時の剣捌きが何よりの証拠。
弓月がそれを伝えると、
「稽古はした。才能で一矢に劣る分、稽古で補えと父上から散々言われたからな。でも、駄目なんだ。最初に河原で会った時、新蔵、だったよな。あんなふうに殺気をぶつけられると……怖いんだ」
乙矢は足を崩し、そのまま腰を下ろした。まるで親にはぐれた迷い子のように、心細げにうな垂れ、ボソボソと呟く。
弓月はその姿を見て、思わず抱きしめ、慰めてあげたいという衝動に駆られた。
しかし、「乙矢殿は私の義理の弟」――自分で口にしたその言葉は、彼女の心に重く圧し掛かる。
危機に陥れば誰だって恐怖を感じて当然だ。それを振り切って自らを奮い立たせ、立ち向かわせる原動力を勇気と呼ぶ。
(乙矢殿に足りないのは勇気なのだろうか?)
だが、矢に射抜かれることがわかっていても微動だにしなかった。或いは、震える手で弓月の脇差を抜いた。
そんな乙矢に勇気が足りないとは思えない。