弟矢 ―四神剣伝説―
「弓月殿っ! 悪い。無神経だった、俺が」

「違うのです。私が……私は」


弓月は言葉にならず、逃げるように部屋を飛び出して行く。


乙矢は、後を追うべく立ち上がるが……。

さすがに、この七日間というもの死線を彷徨い、ようやく目覚めた体では、膝が笑って歩くこともままならない。今の乙矢は、まるで生まれたばかりの子馬のようだった。

 
どうにか廂に辿り着くと、そこに飛び込んできた新蔵に、乙矢は胸倉を捉まれた。


「貴っ様ぁ! 弓月様に何をしたっ!」

「何って、何ができるって言うんだ、この体で」


ようよう答えたが、全く聞いてない。


「あの弓月様が……泣いておられたのだぞ。何を言ったのだ! こととしだいによっては、この場で引導を渡してやる!」


逆上する新蔵に乙矢が投げかけた言葉は、


「なあ……お前って、弓月殿に惚れてるのか?」


意表を突かれたらしく、新蔵は面食らってアタフタとしている。


「な、な、な……何を馬鹿な! そ、そ、そんなこと……弓月様には、い、許婚が」

「お前が本当に殺したいのは俺じゃなくて、一矢なんじゃねぇの?」

「ばっ、馬鹿野郎!! 俺がいつそんなっ」


< 86 / 484 >

この作品をシェア

pagetop