弟矢 ―四神剣伝説―
「うわぁっ!」


乙矢は大袈裟に驚くと、後ろにひっくり返った。


年の頃は四十過ぎであろうか。髭面の顔は恐ろしく凶暴に見え、まるで冬眠前の熊に思える。


「いやあぁぁっっ!!」


川面が震えるような大音声で気合を入れ、乙矢に斬りかかる!


「ま、待て……ちょ」


その太刀筋は乙矢を甚振る……いや、試すかのようだ。男が本気なら、丸腰の乙矢など、あっという間に千切りになっているだろう。

尻餅を突いたまま、必死で後退し、男の刀から逃れる。

乙矢の頭上を紙一重でよぎった刀は、屋形船の柱を一閃し、半壊状態であったそれを見事に全壊させた。まさに熊並の怪力だ。


男は一呼吸置くと、乙矢に詰問する。


「おぬし……爾志和鳴(にしかずなる)が嫡子、乙矢だな」

「し、知らねえよ。そ、そんなもん」


後ろに、人影が一人、二人……いや、三人いた。いずれも相当な手だれであることは間違いなさそうだ。


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