弟矢 ―四神剣伝説―
『敵を斬り、返す刀で自分をも斬りかねない……『白虎』は両刃の剣だ。ならば、戦うべき時が来たら、斬り続けるしかない。私は、負ける訳にはいかないし、負けるつもりもない』


一年前、弓月が一矢に、もし『白虎』の主であったらどうするか? と尋ねた答えだった。

真逆の答えに、そこはかとない“何か”を感じる弓月だった。



「それが、おぬしの答えか?」


ようやく日が沈み、山中に夜の帳が下りて来た。関所を抜けるために、出発しようとした時のことである。

関所の向こう、五里ほど北上した辺りに隠れ里があり、明日中にはそこまで辿り着こうと、乙矢を含め話し合った。

長瀬はジッと乙矢を見ていた。つい昨日まで、心の臓が止まり掛けていた男とは思えぬほどの回復具合だ。やせ我慢もあるのだろうが、それ自体は大したものであろう。
だが、乙矢の腰に刀はなかった。


「持ち慣れないもん持ったって、危ないだけだろ?」

「どうしても、と言うなら止めぬが。姫に負担を掛けるようなことだけはするな」

「逃げ足は速いんだ。安心してくれ」


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