弟矢 ―四神剣伝説―
「――まさか、こんな事態になるなんて思っても見なかった。だから、一矢に任せておけばいいって」


弓月は唖然として、首を左右に振る。信じられない思いだ。


「そんな……では、一矢殿のために、あなたは」

「一矢のためじゃない。俺のためだよ。俺がその方が楽で、幸せだったんだ!」

「でも、稽古は続けてこられた。でなければ、あれほどの腕は揮えないでしょう?」

「稽古は嫌いじゃなかったからな。でも、試合が怖いのはホントだぜ。争いごとは苦手なんだ。俺の負けでいい、って思っちまう」


弓月は両刃の剣の話を思い出していた。 


「私は再び、武藤に襲われたときのような事態に陥れば、今度こそ『青龍二の剣』を抜きます」


キッパリ言い切る弓月に、乙矢は声も無かった。彼女はそのまま続ける。


「乙矢殿、あなたにお願いがあります」

「ど、どんな?」

「もし、私が鬼となり、一門の者に斬りかかった時は……どうか、私を斬り捨てて」

「嫌だ!」

「乙矢殿」


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