after a dream
彼女である私を認識する余裕もなかった “あの日” のはるが、倒した椅子とお弁当。
愛しい口元に触れた、私以外の女の人の指先に、はるが私の元を離れてしまう予感がして、怖かった。
「…私よりも、大切な女(ひと)だとしたら、聞いたら終わっちゃうって。戻れなくなるって。
…もうはると、笑って話せなくなると思ったら、イヤだったんだもん」
気づかれてしまったら最後だと、怯えて踏み出せなくなっていた。
そうではなかったと知った今も、振り返るだけで、簡単に私を震わせるそれは、ブラックホールのようで。
飲み込まれてしまわないように、はるのワイシャツをギュッと掴む。
たかが半年の付き合いと思われるかもしれない。自分でも思う。
…それでも。既に私は、はるなしじゃ生きてなんていけなかった。
だから、はるの前では、いい彼女でいようと。手放せない彼女でいようと捥がいていた訳だけど…
「…深詞って、頭いいクセにバカだよな。
今さら深詞のいない毎日なんて考えられねーのに、離れる訳ねーじゃん」
どんな理由があれ、私の選択した方法は間違っていた。
…誰も、しあわせになんてなれない逃げ道だったのに。
未だに不安がる私のマイナス思考を払拭するかのように、ぐしゃぐしゃっと頭を撫でて、
コツンと、おでこを合わせてくるはるは、
きっといつだって、私を幸せにしてくれようとしていたんだ。
…なのに私は、旭日先生を恨むことでしか、自分の心のバランスが取れなくなってしまっていて。
挙げ句の果てに、蓋を開けてみれば、私と霞先生の勘違いだったなんて。
…取り返しがつかない。
「…ほんとにごめん」