吐息が愛を教えてくれました
千早とあのかわいい女の子の二人きりじゃなかったんだ。
金曜日の様子じゃ、あの女の子は千早と二人きりになれることを喜んでる感じだったのに。
だからだろうな。
「ツナサンド、足りなかったの?」
千早の分しか用意してなかったはずのツナサンド。
きっと、他の人たちも来て、各々つまんだに違いない。
「んー。足りなかったっていうか、俺にとってのツナサンドは実里が作るツナサンドだから。
あれよりうまいツナサンドないんじゃない?店で食べるのより断然うまいし」
考え込んでいる私の横に、いつの間にか千早が立っていた。
はっと視線を上げると、私を見下ろすにやりとした視線。
かなりの至近距離に、思わず後ずさりそうになったけれど、そうはさせないとばかりに腰に回された千早の手。
何度も抱かれたことだってあるのに、こうして洋服越しに触れられるだけで、体全体が脈打つようだ。
今日は千早とのつきあいを最後にしようと思って帰ってきたのに。
「ねえ、明日はツナサンド、作ってよ」
間近に顔を寄せられ唇の上に落とされる言葉は、まるで魔法のよう。
決意が揺らぎそうになる。
千早の側にいるのは私のような女ではなく、あのかわいい女の子。
そして、千早が目指すものを理解して、後押しできる人。
長い間私のことを惰性で大切にしてくれた千早には、もっとお似合いの人がいるはずだから。
だから。
「……ごめん。作らない」
見つめる千早の視線から逃げるように俯いて、そう呟いた。
これまで何度も作ったツナサンドは千早の大好物だけど……二度と作らないって、今、決めた。
ぎゅと手を握りしめ、棒立ちの私を見つめていた千早は、私の腰に置いていた手をそっと離し、大きくため息を吐いた。
「やっぱり……か。予想はしてたけど……」
投げやりで、どこか諦め混じりの千早の声に、目の奥が熱くなった。
もう、終わりだ。
さよならだ。
ようやく、千早を解放してあげられる。