吐息が愛を教えてくれました
側にいる理由
「……って言って、俺が諦めるとでも思ってる訳?」
「え?」
一瞬離れた千早の手はそのまま私を抱き寄せて、力いっぱいその胸に押し付ける。
千早のお気に入りの柑橘系の香水が私の気持ちを刺激する。
高校時代からこの香りに癒されて、つらい時期を乗り越えてきた。
今私を抱きしめるこの胸の温かさが作り出す空間と、そしてこの香りが、これまでの幸せだった時間を思い出させて泣きたくなる。
「実里がどれだけ不安になっても、俺の側から離れるな」
私の右耳に落される言葉は、どこか震えていて、千早の心を表しているようだけれど、私を抱きしめる腕の強さだけは変わらない。
私は身動きできないほど、ぎゅぎゅっと包み込まれている。
「俺のせいで、実里を俺に縛り付けることになって悪いとは思うけど、俺は実里から離れるつもりはない」
「ち、違うよ。私が千早の側から離れなかっただけで、千早の人生を変えてしまった……」
「違うっ。実里の人生を変えて、望みもしない毎日を送らせることになった原因は俺なんだ。俺が」
「やめてっ」