吐息が愛を教えてくれました


それでもピアノが全てだった私は、音大を卒業して音楽教室の先生をしている。

今となっては、ピアニストとして厳しい道に身を投じるよりも、子供たちと音楽を楽しみながらピアノを続けている方が自分には合っていたな、と思う。

事故によって失ったものは大きかったけれど、それでも納得できる人生を送っているのだから、私は恵まれている。

それに、私の側に、千早がずっといてくれた。

大好きな千早が、いつも私を見守ってくれていたから、私はこうして笑っていられる。

「あの日から、ずっと千早は私の側にいてくれたよね。自分のせいだって責めて、病院に運び込まれた私にごめん、ごめんって。何度も言ってた」

「ああ。俺があの時自分で自分を守ることができれば、実里は左耳が聞こえなくなることもなかったはずなんだ」

「うん……そうかもしれないけど、私は千早が助かったことが嬉しいし、後悔してない。
だって、あの時にはもう、私は千早のことが好きだったから」

「実里……」

私の言葉に、千早は驚いて黙り込んだ。

そうだよね、驚くよね……。

私が千早に「好き」なんて言葉、これまで一度も言ったことがなかったから、当たり前だ。



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