吐息が愛を教えてくれました
千早はそう言って、ぐりぐりっとお互いの鼻を合わせてからかった。
嬉しい時によくする千早のその仕草に心は和む。
私が落ち込んだ時にもこうして励ましてくれるし、その時の千早の表情に嘘は感じられないけど、やっぱり納得できない。
千早が相変わらず私の顔にすりすりと頬ずりをしているのをそのままにして、一旦息を吐いて気持ちを落ち着けた。
「ねえ、あの、バスケ部のマネージャーはもう、いいの?」
思わず低くなった私の声に、千早はそっと私の顔を見る。
それまで好きなように頬ずりしたり、私の頭を撫でていたせいか、どこか気の抜けた顔。
それでも、格好いいんだけど……。
重症だ、私。
「いいも何も。何年前の話をしてるんだ?とっくに名前も忘れてしまった女の子のことを持ち出されても、いいよ、別に。としか答えられない」
「は?」
「んー。確かにマネの事好きだったとは思うし、告白しようかとも思ってたけど。
俺は、事故のあと、実里のことがたまらなく好きになって、絶対添い遂げてやるって決めたからなあ。
あの頃俺がマネージャーの女の子に告白して、たとえ付き合ってたとしても、きっとそのうち別れて実里と一緒にいたと思う。
それが運命なんだよ」
ふふん、と顎をあげて自信ありげに笑った千早は、言葉を続けた。
「初恋は実らないっていうけど、結局それで良かったんだよ。俺はもう実里がいればそれでいいからさ」
さ、って言われても。
思いがけない告白を聞かされて、私の頭はぐるぐる混乱状態。
これまでずっと抱えてきた悩みや切なさって一体なんだったんだろう。
あのマネージャーの名前でさえとっくに忘れてるなんて、思ってもみなかった。