吐息が愛を教えてくれました
「実家に行ったら、母さんが職場でもらったらしくて分けてくれたんだ。実里と一緒に食べなさいってさ。
あ、来週末、実里も一緒に実家に行くって言っておいたから」
「え?なんで?」
「結婚の挨拶に」
え?結婚?
「今日実家に行ったのはさ、実里と結婚するからいつ頃なら空いてるか聞くためなんだ。
来年の春には院を卒業して、そのまま大学の研究室で働けることになったし、そろそろ俺も一緒に暮らしたくて我慢できない」
「そ、そんなの聞いてないし、それに、それに、あの女の子、そうよ、あのぶら下がってた女の子の腕を振り払おうともしなかったくせに」
「はあ?まだあの子のことをいうわけ?」
千早は面倒くさそうにそう呟くと、手にしていたスプーンをお皿の上に置いた。
お茶を飲んで一呼吸つくと、どこか嬉しげな表情で口を開いた。
「妬いてくれるのは嬉しいけどさ。考えてくれよ。一週間ろくに食べてない寝てない、そんな俺に、あの女の子の力強く絡まれた腕を振り払う力はなかったんだよ」
「は?」
「できれば実里があの女の子に怒って、強引にあの腕を引き離してくれないかなあとか、女々しいことも考えるくらい体力も気力も限界だったわけ」
苦笑しながら呟くと、千早は「悪かった」と頭を下げた。
「金曜日、実里が傷ついてるのもわかったし、立ち去る後ろ姿を追いかけたかったけど、そんな力はなかったから、それも無理だった」