吐息が愛を教えてくれました
そんな千早が、私への罪の意識から無理をして私の側にいてくれることに、私は苦しんでいたけれど、それでも千早の優しさに甘え、時には本当に私のことが好きなのかと誤解すらしていた。
とっくに体が回復している私の面倒をみたり、一生を背負う必要なんてなかったのに、と。
そう思う苦しさから、私の方が逃げ出したかった。
「千早……幸せなの?私と一緒にいて、本当に?」
思ってもいなかった言葉を、真摯な態度で落とされて、私は恐る恐る聞いてみた。
本当に、私といることが幸せなのか、まだ信じられない。
「本当。絶対、嘘じゃない」
更に強い声で答えてくれる千早は、テーブルの上にあったお皿を脇によけると、そっと私の手を握った。
「いつまでたっても、何年側にいても、何度抱いても、決して自分の思い込みを捨てようとしないこの頑固な女に、俺の幸せは握られてるんだぞ。
そりゃ、世の中には俺と同じように何らかの事情で仕方なく結婚する人たちもいるだろうけど、俺は、あの事故がきっかけで実里のことを深く知ることができて、そして少しずつ愛するようになった。
それは決して、仕方なく、なんて感情からじゃない。
あの事故まで実里のことをなんとも思ってなかったことに嘘はつけないけど、この七年の間、実里のことがどんどん好きになって、愛して、側にいるためにはなんだってするって覚悟もしてる」
言葉が続くに比例して、どんどん近くなる千早の顔。
私の手を掴む手はそのままで、私はおろおろするばかりで。
それでも、千早がしようとしている事はわかってしまう。
「ちょ、ちょっと、す、するの?」
照れくさくて焦る私の言葉を鼻で笑うと、千早はテーブル越しに乗り出した体を更に私に近づけて。
「ああ、するから」
そう言うが早いか、軽いリップ音を響かせて、私に唇を重ねた。
あっという間の触れ合いに、私の方が離れていく千早の唇を思わず追いかけそうになる。
……ぐっと我慢するけど。