吐息が愛を教えてくれました
私はピアノを弾くことでしか自分を表現できない不器用人間。
見た目だって、他人に自慢できるほどのものは持っていない。
千早が私を側に置いてくれるのだって、あの事故があったから。
そして、私への謝罪の気持ちから、私に寄り添ってくれている。
毎日を余裕もなく必死に過ごす私は、千早から同情心を与えられて、ようやく生きている。
けれど、善意や同情がどれだけ長く続いても、所詮は単なる情だから、他の女の子に対する愛情にとってかわられる日がいずれくると、わかっている。
高校時代から続いているつきあいがいつ終わるのかと怯えながら、そして捨てられることもどこかで覚悟をしながらの七年間だったけれど。
「合鍵、返してもらわなきゃね」
それほど重くもない鞄を、必要以上に何度も抱え直して。
今来た道を引き返したい気持ちを堪えながら、灯りの方へと再び歩き出した。