吐息が愛を教えてくれました
ドアの前で深呼吸をして、鍵をガチャリ。
わざと音を大きくして、開錠した。
部屋の中にいる千早に、私の帰宅を知らせるため。
千早に限ってそんな非常識なことはしないだろうと思うけれど、もしもあのかわいい彼女を部屋に呼んでいたなら、と考えてしまった私の防御。
部屋に突然入って、二人の甘いシーンなんて見たくもないから。
そう考えて、おかしくなる。
ここは私の部屋なんだから、そんなこと千早がすることないってわかってるのに。
自分が思っている以上に、私は打ちのめされて、正常な考え方ができなくなってるのかもしれないな。
ふう、と肩を落とし、ゆっくりとドアを開けると、普段通りの明るい玄関。
電気代がもったいないからちゃんと消してって言ってるのに。
何度言っても守ってくれないんだから。
次同じことをしたら、もう家には入れてあげない。
……あ、もう、次はないんだった。
今日、合鍵を返してもらって、それで千早とさよならするって決めたばかりだったのに。
だめだだめだ。
ぶんぶん、と頭を振りながら靴を脱いでキッチンに行くと、予想通り千早がいた。
それも、普段通りに彼専用のエプロンをつけて、今彼が気に入っている歌を口ずさみながらフライパンを振っている。
千早お得意のチャーハンを作っているようだ。
テーブルを見ると、既にから揚げやサラダが大きなお皿に盛られている。
手先が器用な千早が細工をして花の形に仕上げたあるトマトまでもが並んでいて、足元からふっと力が抜けた。