吐息が愛を教えてくれました


「ど、どうして……?」

目の前の状況が信じられなくて、肩にかけていた鞄がするりと床に落ちた。

フローリングに響いた音に、ようやく振り返った千早は、これもまた普段と同じような笑顔で私に視線を向けると。

「お帰り。もうすぐ出来上がるから、うがい手洗いしてこいよ。バイト先の店からもらったワインもあるから今日はのんびり飲もうぜ」

「飲もうぜって、そんなの、無理だよ」

「……え?明日も休みだって言ってなかったっけ?だから俺もバイト休みにしたんだけど?」

「た、確かに休みだけど、そういう問題じゃないでしょ」

「そういうって、どういう問題?」

出来上がったチャーハンを、テーブルに用意してあった大皿によそう千早は、訳が分からないとでもいうように戸惑っている。

まさか、わかってないの?

ううん、そんなはずはない。

私が金曜日の夕方、千早の大学に行った時、あのかわいい女の子を腕にぶら下げて嬉しそうに笑ってる姿をちゃんと見たし。

それに。

『よう、仕事が早く終わったのか?』

と確かに私に声をかけてきた。

絶対にあれは千早だった。

間違いない。

千早にしがみつくかわいい女の子から牽制されるような、それでいて庇護欲をそそられるような瞳を向けられたのは現実だ。



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