吐息が愛を教えてくれました
金曜日、大学を飛び出したのは、そんな千早の心の変化に気づいたせい。
ずっと、恐れていた瞬間がとうとう訪れたんだと、そう感じて怖くなったから。
音々ちゃんの家で自分の怖さを少しずつ小さくして、そしてようやく千早に向き合う勇気が生まれたというのに。
今こうして私の部屋で、普段通りに動いている千早に、戸惑いしか感じられない。
私が金曜日に見たのは、かわいい女の子と仲良さげにいた千早だったのに。
あの、かわいい女の子と一緒にこの週末も大学で研究していたはずなのに。
どうしてこんなに普通の顔をしてるんだろう?
金曜日私が走り去ったあと、連絡すらしてこなかった薄情な男なのに、どうして今私の部屋で通常営業とでもいうべき様子でいるんだろう。
「ねえ、どうして……」
ふとつぶやいた私に、千早はちらりと視線を上げて、
「今日のチャーハンに入ってる焼き豚って、実家に送られてきた最高級の一品。心して食えよ」
あっさりとそう言っただけ。
「え、いや、違うでしょ。どうしてここにいるの?それに……あのかわいい子が作ってくれたツナサンド、おいしかった?」
「ツナ?ああ、うまかったよ。とはいっても、俺は一つつまんだだけで、あとは他の奴らが食べてたけど」
「他のやつら?」
「ああ。5人くらい来てたかな」
「……そう」