アイドルな王子様
「みどりかわさ〜ん、おはよう!」


 警備員さんに朝の挨拶をして店外と店内との境界線である朱引線を跨いだところで、背後から脳天気な声が私の名を呼んだ。


「追い付いたぁ。歩くの早いね!」


 コレが最近の私の悩みの種であり、私へのイジメの原因でもある、百貨店側の社員・金沢サン。

 如何にも営業マンです!って感じの爽やかで清潔な身なりをしたイケメンの出世株。

 女子社員やパートさんに絶大な人気を誇っているらしいが、私には爽やかすぎる癖に自信満々な彼は、裏がありそうに見えちゃうので苦手な人。

 なのに、最近よく声を掛けてきたり、食堂で隣に座ってくる。

 正直、ウザイ。


「おはようございます。今日は朝から忙しいので、急いでいるんです」


 私は、またか、と思いつつも邪険にも出来ないので適当に受け答えする。


「何かあるの? 手伝おうか?」


 そんなのアンタに関係ないわ!

 金沢サンは2階フロアのサブマネージャーで、私は1階のブティック店員。

 まっったく縁もゆかりもないし、仕事を手伝って貰う謂われもない。


「これから朝一で入荷があるんで、開店までに品出ししなくちゃならないんです」 


 そう今日は大量の商品が入荷する上に、早番の社員は私ひとりだけ。

 幾ら下っ端でもれっきとした正社員の私は、パートさん達を指揮して仕事をして貰う立場なのだ。

 しかも、相手は一癖もフタクセもあるパートのオネエサン達とくる。

 開店までの短い時間のなかで、掃除・荷解き・検品・コンピュータ処理・品出し・収納をやってのけなければならない。

 …彼女たちを指揮して。

 ああ 無事何事もなく開店出来るのかしら…?




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