アイドルな王子様
 しかし、ここでキレる訳にもいかない。

 何たって今日は忙しい。

 もうすぐ宅配業者が大量の段ボールを荷台に載せてやってくる。

 その前に掃除機をかけたり、商品棚を拭いたり、コンピュータ処理したりとやらねばならないことが山積している。

 野村さんの馬鹿げた嫉妬に付き合ってる暇はないのだ!


「すみません」


 と、私は取り敢えず心にもなくそう云って、掃除を猛スピードで始めた。

 他のパートさん達も徐々に出勤し、めいめいが拭き掃除を始めた。


 野村さんは私を一瞥してから、掃除を手伝うこともなくブティック内の事務所で前日の伝票を眺めている。

 彼女は、他の社員が居ない限り絶対に掃除に参加しない。

 あっぱらぱーな身なりの上に、立派な裏表のある底意地の悪い陰険オンナ。

 私が内心で毒づいていると、遠くからガラガラと大きな音が聞こえてきた。


 お荷物さまのご到着!!



 私は大きく息を吸うと、気合いを入れて宅配業者を迎えた。





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