アイドルな王子様
「翠川さん」 


 一心不乱に山を切り崩していると、険のある声に呼ばれた。


「はいぃっ!」


 つい条件反射で大きく返事をしてしまう。


 顔を上げると、いつのまにか私はパートさんの群れに取り囲まれていた。


 目の前には野村佳代。そして、周りはざっと5人のパートさん。


 全員、腕組みに仁王立ちで私を睨み下ろしている。

 もお…なによお、このクソ忙しいときに。


「なんでしょう?」

「あなた、どういうつもりで金沢さんに付き纏ってるの?」


 はああ? 何云ってんだこいつ。

 いつ私が金沢さんに付き纏ったのよ?

 言い掛かりも甚だしいっつの。

 それより検品してよ、お願いだからあ…。


「あの…お言葉ですが、付き纏うどころか、私から声を掛けたこともないんですけど」


 そう云うや否や、野村さんの顔が恐ろしい程に引き攣り、般若になった。


「なんて厚かましい! 山田さんが見たって云うわよ! 食堂であなたが金沢さんにベタベタとしな垂れかかっていたって」


 私は振り返って山田さんを凝視する。

 なんでそんな嘘吐くの!?

 私は一見爽やか、でも実は腹黒そうな営業マンなんて大嫌い。

 頼まれたってベタベタなんかするもんか!

 私の理想は飽くまでもショウなのよっ!





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