アイドルな王子様
「ちょっと顔が可愛いからって、仕事は出来ないくせに男と見ればすぐ色目使って媚びて、アンタって本当に最低な性悪女ね!」


 私がいつ男に色目使ったのよ?

 私が興味あるのはショウだけだってば!


「腹黒女!!」


 …その台詞、あなたが云いますか、野村さん?


 ってか、このひとたちは…!

 私のなかで堪忍袋の緒ってものがブチブチと音を立てて切れていくのを感じる。


 こんの、殺人的に忙しい朝に何をくだらないことをごちゃごちゃと!!


「…とにかく、私は金沢さんのことはなんとも思っていませんので」


 私はキレると口が悪くなる。

 昔から母に注意されていること。

 今、下っ端社員の分際で、ものの道理もわかんないようなオネエサマ相手にキレる訳にはいかない。

 こんな高給な会社辞めたくないし。


 私は冷静になるために、再び腰を下ろして伝票を手に取った。


 そこへ。


「なにシカトこいてんだよ!」


 ――ぐしゃ


 今まで黙っていたヤンキー上がりの伊藤さんが、手にしていた伝票を踏み付け、更に私の髪を掴んでぐいっと上を向かせた。


「野村さんの話はまだ終わってねえんだよ」

「アンタみたいなサカリのついたメス猫に金沢さんは渡さないわよ」


 ぶち。


「アタマ空っぽの性悪女が!」


 どっちが空っぽなのよ、伊藤さん?


「ウソつき」


 いい加減にしてよ、山田さん。


「あーら、翠川さんって皆に嫌われてお気の毒ねえ。でも仕方ないわよね、サイテーな厚顔無知の落ちこぼれバカ売女なんだもの」



 ぶちぶちぶち。



 醜く、陰険に歪んだ野村さんの顔が、私を見下して嘲笑った。





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