アイドルな王子様

折り返し地点

『月杏。あんたもいい加減この辺で覚悟決めなさい。もうイイトシなのよ?』 

 会社を辞めることを報告して以来、毎日毎日この調子で郷里の母から電話がくる。


「もー…まだ24歳だってば。この若さでお見合い結婚でもないでしょ」

『もう24よ! 一昔前では24歳って云えば結婚適齢期のど真ん中、クリスマスイヴよ!』

「クリスマスイヴぅ?」

『ケーキもクリスマスイヴまでがいちばん売れるでしょ。25日になったら売れ残りが値引きされてちらほら売れるだけ。それを過ぎたらぱったり売れなくなって、終いには賞味期限切れ。見向きもされず、ゴミ箱で腐っていくだけよ』

「ひっひど…」

『お見合いも24歳までが売り時なのよ! 旬なの! あんただって売れ残り人生はイヤでしょ?』


 余りの母の迫力に私は黙り込む。


『幸いあんたは学歴もあるし、見てくれも良く産んであげたから、今なら選り取り見取り引く手数多よ』


「お母さぁん。私今はまだのんびり無職生活楽しみたいなぁ?」

『甲斐症のある人捕まえたら、一生無職のお気楽ライフみたいなもんよ』


 媚びた口調も、母には全く通用しない。

 …当たり前か。そんなに甘い母ではないもんな。


『とにかく! 明日までに送った写真に目を通して、誰と一番に会ってみるか決めておきなさい。いいわね、じゃあね、バイバイね!』



 …イマドキ、24歳過ぎたら嫁の行き手がないなんて古すぎる…。

 野村さんなんて36歳よ? お母さん。

 クリスマスイヴどころか、更に折り返してきちゃってんのよ、どうするの。

 

 それに。結婚だけがシアワセじゃないと思うわよ、お母さん?





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