アイドルな王子様
 ようやく気分が良くなったのと、アナウンスで降船を急かされたのとで私はトイレから出た。



「よ。もう大丈夫?」


 トイレの向かいの壁にもたれていた男の人が、私の姿を見て身を起こし、声を掛けてきた。


「あっ」


 さっきの親切な人?


「はい、もう大分。先程は…有難うございました」

「いや、それはいいんだけどさ。あんた、誰かと一緒に乗ってるの?」


 はい?


「あのさ。バッグとか、荷物は?」

「え。」


 私は咄嗟に両手を出す。

 …持ってない。


「…やっぱり」

「ああっ!?」

「俺もあんたが手ぶらだったのが気になって、席を見に行ったんだけど…なにもなかったよ…」

「……えええっ!!」



 さ。


 サイアク!!!





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