アイドルな王子様
 ひとしきり泣いて、段々と落ち着きを取り戻してくると、見知らぬ男の人の胸でさめざめ泣いてしまった自分が恥ずかしくなってしまった。

 うーん、この状況をどうしてくれよう。


「……気が済んだ?」


 彼が優しい低い声で尋ねた。


「はっはい! すみませんでした…」


 私は慌てて彼から離れた。


「いいけどね、別に。ところで、この後どうする? 目的地あるの?」

「いえ、別に…」

「あ。何処行くにしても持ち合わせもないのか…。うーん。飯でも喰いながら考えよっか。ご馳走するよ」

「え!? いえ、そんな」

「気にすんな。別に身体で返せ、とか云わないから。俺、ウニ食べたくて利尻に来たんだよね。一人で食うのも寂しいし、付き合ってよ」

「でも、そこまでお世話になるわけには」

「…あんたさ、今晩食事付きの旅館とか予約してある?」

「え? いえ? 日帰りのつもりなので、荷物も稚内のホテルに置いたままで…」

「今、お世話ついでに俺に奢られておきなさい。どうせ帰りのフェリー代もないだろ?」

「…はい…」

「それに」


 彼は、はあ〜と深い溜め息を吐いて言葉を続けた。

「稚内行きのフェリー、今日はもうないよ」



 ………えええぇぇっ!?






.
< 34 / 77 >

この作品をシェア

pagetop