アイドルな王子様
 黒光りする器のなかの、宝石のような茜色と橙色の見事なコラボレーション。


「遠慮なくどーぞ」


 結局、私は今、彼と利尻の食事処にいる。

 目にも鮮やかなうに・いくら丼をご馳走になろうとしているところ。


「…いただきます」

「はい。いただきます」


 彼がウニ丼口に運ぶのを見届けてから、私も箸を付ける。

 …迷惑掛けてばっかり。

 見ず知らずの人だというのに、食事まで面倒みて貰って。

 でも、最低フェリー代も借りなければ、稚内へすら帰れないし…もー最悪。


 己のドジを呪いつつ、ウニ丼を口へ運ぶ。


「お味はどお?」

「おっ……おいしいっ!」

「でしょ」


 これがホントのウニの味なんだ!

 目から鱗よ、感動もの!

 ほんのり塩水の味に、濃厚でほのかな甘味がふわ〜んって広がって。臭みや後味の苦みなんて一切ない。

 今まで食べてたウニは何だったのかしら。


「これが食べたくて毎年来ちゃうんだよな」

「毎年ですか?」

「ん。病み付きにならない?」

「なるなる〜。いくらも美味しいぃ!」

「そう?」

「あ、お味見どーぞ!」

「あ、ありがと」


 そんな感じで、私たちはウニといくらを存分に堪能したのだった。



 落ち込んだ気分も何処へやら。





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