アイドルな王子様
「で。この先どうする?」

 感動ものの食事の後、アイスクリームをいただきながら今後の相談を始めた。


「…すみません。お世話になりついでに帰りのフェリー代を貸して頂けますか? 東京へ帰ったら必ずお返し致しますので」

「稚内のホテル代は? それと帰りの航空券持ってるの?」

「……航空券も盗まれたショルダーの中だったんです。けど、再発行は無理だったとしても、暫く稚内のホテルに連泊してそこへ実家からお金を郵送して貰います」


 お見合い蹴って出て来てしまった手前、実家に泣き付くのはヒジョーに情けないけれど、この場合それしか方法がない。


「そっか。でも、観光シーズンに突然連泊出来るかな?」

「……どうでしょう…」


 そういわれてみると…だ、ダメかも知れないっ。


「出してあげてもいいよ、必要なお金」

「は?」

「ホテルと食事と交通費。実家から送金して貰うにしても、届くまで飲まず食わずではいられないでしょ」

「でも…」

「見返りなんて要求しないって」


 彼はくすくす笑って、薄茶の前髪の下から上目使いに私を見た。

 とても大きな目をしている。

 少し目尻の上がったそれは山猫のような鋭さも秘めているけれど、今はただ私をからかうように甘く揺らめいている。

 凄く魅力的な色素の薄い金茶の眼。

 茶髪ももしかしたら自毛なのかもしれない。


 改めてよく見ると、彼はとても端正な、エキゾチックな顔をしていた。


 美術室の彫像のように彫りが深くて、頬も鼻梁もすっきり高い。

 やや大きめの艶やかな口唇は、端がきゅっと上がっていて形も良い。

 顎はつんと尖っていて、全体の輪郭も引き締まっている。


 残念ながら、それらの美点は長くてボサボサのざんばら髪によって隠されていて、よく見なければ発見出来ない。



 だけれども。



 うわ、美形なんだ、この人。


 もっと身なりに気を遣えば、かなりのルックスになるのに勿体ない。


 でも、この飾らないところもこの人なりの魅力なのかもね。





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