アイドルな王子様
「…キレイですね」

「ん? 海?」

「…景色を遮るものがないのがスバラシイ」

「はは そうだね」

「聖夜さんは、東京にいるんですよね。今はどんなバイトしてるんですか?」

「…あー…発想とか閃きが必要な仕事?」

「ひらめき?」

「うん。だからこうフラフラしてるのも仕事のうちってことで」

「ふーん…」


 …よくわかんない。

 発想が大切で、フラフラ遊んでいていいバイト?


「月杏ちゃんはどんな仕事してたの?」

「つきこでいいです。舌噛みそうで呼び辛いでしょ。友達はツッキーって呼んでました」

「恐竜…」

「ね。首が長くなりそうなあだ名でしょ」


 聖夜さんは、何度か「ツキコ、ツキコ」と呼ぶ練習をする。

 なんだかちょっと、くすぐったい。

 男のひとに呼び捨てにされるのって、なんかいいなあ。


「じゃ、俺も聖夜でいいよ」

「そんなまさか。セイさんとか?」

「寅さんみたいで厭。」

「じゃあセイちゃん」

「セーヤ。ま、おいおいでいいけど。俺、自分の名前結構好きなんだ。字面はともかく」

「目上で、しかもこれから借金しようって人を呼び捨てには出来ませんて」

「真面目だなー…。あ、敬語もなし。仕事中じゃないんだから。つきこ…って公務員だったとか?」

「はずれ〜。デパートでブランドバッグとか売ってました。イジメられてキレちゃって、ついこの前辞めちゃった」

「月杏をいじめるとは許せねーな。東京帰ったらふたりで逆襲にいくか?」

「ほんと? やりたい〜っ。でも勇気ない〜」

「キレて辞めた割には小心者」


 そんなことを話しているうちに車は国道を反れ、海辺へ続く道へと折れた。

 行き着いた先はちょっとした岩場の、水嵩の浅い海岸だった。





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