アイドルな王子様
「ちょっと降りてみない?」

「うん!」




 車を降りると、磯の香りを含んだ強い風が容赦なく吹きつけ、私の白いチュニックが舞い上がる。

 慌てて裾を抑えたけど、お腹見えてないよね?


「い、いやぁもおっ強いですね、風」

「ん。それにやっぱり東京と比べると寒いね」

「はい。私なんて冷え性だから七分袖ですよ。カーディガンも携帯して…盗まれちゃったけど」

「あ、欲しい? 買う?」

「いっ、要りません! 稚内へ戻ったら着替えありますし」

「そっか」


 そう云って、彼は器用に岩場を渡りながら海辺に近寄って行った。


 彼のすらりとした後ろ姿に思わず見惚れる。


 束ねた髪の下から覗く、うなじが妙に色っぽいって思うのは可笑しい?


 第一印象はコキタナイお兄さんだったけど、今では頼り甲斐のあるちょっと気になるお兄さん、になっちゃってる。


 よーく見ると美形だし。

 何故だかイロケも感じちゃって。


 やばい、私。


 彼に惹かれてる?


 セレブな運命の恋人を捜す旅の筈なのに…。


 出逢い、惹かれたのは28歳のフリーターでした、なんて。


 そんなの、洒落にもならなくない?



.
< 43 / 77 >

この作品をシェア

pagetop