アイドルな王子様
 バスルームに、お気に入りのオレンジの香りが立ち込める。


 会社でいびられてヘコんだとき、この爽快な甘酸っぱいオレンジの香りが私を癒してくれた。

 オレンジのバスキューブは、明日また元気になるための、私の儀式だった。



 オレンジの香りの湯気に包まれて、オレンジ色のウニを想い出した。 

 細身の優男に見えるのに、結構やんちゃしちゃう聖夜さん。

 フラフラしてそうな身なりなのに、その実すっごく中身はしっかりしている。

 置き引きに遭ってオロオロするだけの私をリードして、全ての手を打ってくれた。

 臨機応変に的確に対処出来る冷静さも、頭の良さも、そして面倒見の良さも兼ね備えていて。

 それがどうして、イイトシしてフリーターやってるんだろう?


 …謎だ。


 そう言えば、私は聖夜さんのことを何も知らない。

 名前と歳と、東京在住ってことくらいしか。

 何処で生まれて、どんな道を歩いてきたんだろう。


 知りたいな、聖夜さんのこと。

 もっともっといっぱい。


 取り敢えず、セレブじゃないのは明らかだけど。

 ふふふっ とバスルームに私の思い出し笑いがこだました。




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