アイドルな王子様
「ところでさ、ふたりの馴れ初めを聞かせてよ」


 カンジさんが、聖夜さんのケーキを口に運びつつ訊いてくる。


「馴れ初めも何も、会ったばかりで」

「なに、お前、会ったばかりで結婚宣言しちゃったの!?」

「カンジ、おまえなあ」

「あのっ、私がお世話になってるんです! ...お金借りちゃってたりとか」


 きょとんと眼を見開いて、カンジさんは私を凝視する。


「...援助交際?」

「カンジぃ」

「冗談だって」

「お金はすぐに! ほんとすぐに返しますけど! でも、申し訳なくって...ごめんなさい」


 いきなりがばっとテーブルに突っ伏して謝る私に、ふたりが顔を見合わせる気配がする。


「...聖夜、お前金に困ってたっけ??」

「彼女、律儀で真面目だからさ...あんまからかうな」

「ねえねえ彼女...名前なんての?」

「....緑川 月杏です」

「月杏ちゃん。こういっちゃなんだけどさ、聖夜って金に無頓着な程に全く固執しない奴なわけ。自分の損得で動く人間じゃないし、実は凄く人見知りで交際範囲はめちゃめちゃ狭いし」

「はあ...」


 そうなの?

 私には、凄く親切で人懐っこいひとに見えていたんだけれど。


「そんな偏屈な奴だからさ、こうやって月杏ちゃんと関わってるってことは、相当気に入って」

「か~ん~じ~...おまえもうどっかいけ」

「いや、こういうことははっきりしておかんとだな」

「うるせーよ、仕事しろ」

「そうですよマスター! いい加減仕事に戻ってください! 厨房わたわたです」


 いきなり上から野太い声がして、私は必要以上にビクついてしまった。






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