アイドルな王子様
「そう云えば、月杏はどうして北海道にひとりで来たの? 日程も決めていないようだし、目的の観光地とかはないの?」


 うっ。
 
 それを訊かれると...。

「う~~ん」

「聞いちゃいけなかった?」

「えっいや、そんなことないよ! ないけど。話すと長くなりましてね」

「なに?」

「ええっと。その、なんだ。私、会社辞めたばっかりだって言ったでしょ?」

「うん」

「実はね、パートのおネエサンたちの陰険な嫌がらせに或る日とうとうぶち切れちゃって、啖呵きって辞めちゃったの」

「へええ...それは辛かったな」

「もう、女って醜いのよお。んで、辞めたはいいけど精神的にどっぷり疲れちゃて、再就職もなにも考えられなかったのね」

「あー...」

「そんなとき、母から電話がきて『あんたももうクリスマスイヴなんだからお見合いでもして嫁に行け!』と」

「クリスマスイヴ?」

「24歳のこと。一昔前でいう適齢期ギリギリ。イヴには飛ぶように売れるクリスマスケーキも、25日過ぎると売れ残りのセール価格になるのよって」

「ぶっ そりゃ酷い」

「自分の娘に向かって酷いでしょう? ほんとにお見合い写真の束を送ってきたのよ?」

「一応心配してるんだよ。で、お見合いしたの?」

「まさか! まともな恋愛のひとつもしたことないのに、この歳でお見合い結婚なんて寂しすぎると思わない?」

「...レンアイ、したことないの?」




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