アイドルな王子様
「...そんなことないんじゃないの?」

 考え深げに頬杖をついてずっと話を聞いていた聖夜さんが、ぼそりと呟いて、私の手からスプーンを奪った。


「行動を起こさないと何も始まらないよ。現状を変えようとして、動くことは正解じゃない?」

「そうかなあ」

「それに、旅はまた始まったばかりでしょ。これから何が起こるか判らない。そんなネガティヴでどーするよ?」


 私の手から奪われたスプーンは、聖夜さんの長く素敵な指先で弄ばれている。

 ...綺麗な手だなあ。

 聖夜さんのお仕事って何なんだろう。

 絶対、肉体労働とか水仕事じゃないだろうな。


「でも、運命の人捜しって考え自体がイタかったのかも」

「そう? 乙女ちっくでいいんじゃないの」

「だって、大人の恋愛すら知らない私が、本気で好きになれる人に出逢えるだけでも凄いことなのに。その彼からも愛されるなんて…奇跡だわ」

「うん、確かに」

「やっぱり…」

「あ、いやいやいや、違うって」

「私には運命のひとなんていないんだああっ」

「誤解だ誤解。こんなに人間が溢れ返ってるなかから、たったひとりの運命の恋人を見付けて、相思相愛の恋に堕ちるのは確かに奇跡だなって。月杏には無理だって意味じゃない」

「……」

「信じてろって。月杏はオトメちっくが似合ってるよ」

「コドモっぽいってこと?」

「発想が後ろ向きだなあ。そうじゃないよ。月杏は妖精みたいなふわふわしたオンナノコだからさ…無理してギスギスした現実の女にならなくてもいいかなと」

「…夢みたいなこと、信じていてもいいのかなぁ」

「ああ…きっと王子サマが迎えにくるよ」


 そう言いながら聖夜さんは、くくっと笑いを漏らす。


「あ~っ やっぱりバカにしてるでしょ」

「してないって」

「だって笑ってる」

「いや、これは」

「これは、何?」

「……その、運命の恋人って」

「恋人ってっ?」

「…俺だったりして…」




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