アイドルな王子様
「さあて。お腹も満たされたことだし、そろそろ帰ろうか」


 そう云って、聖夜さんは軽く伸びをした。

 ほっそりとした外見とは想像もつかない程によく食べる彼でも、流石にこのお料理の数々は食べきれず、結構お残ししちゃってる。

 聖夜さんが奥にいた店員さんに小さく会釈をすると、彼女はすぐさまこちらへと急ぎ足でやってきた。

 長身で、隙なくお化粧をした華やかな女性だった。


「お待たせいたしました」


 聖夜さんを真っ直ぐに見つめて、えくぼを刻んで彼女が微笑む。

 いやいや。おまたせされていないですよ?


「ごめん。折角作って貰ったけど、お腹いっぱいになっちゃった」

「はい、ではお包みいたしますね?」

「ありがとう。ごめんね」

「うちのスタッフが出しすぎなんですよぉ。聖夜さんがいらっしゃると皆張り切っちゃって。.....今日は特に」


 そう云って、彼女はちらっと私に視線を送った。

 .....なんか。私、この女性に歓迎されていない?

 挑戦的な眼差しのような気がするんですけど?


「ああ。彼女、つきこちゃんって云うんだ。可愛いでしょ? また連れてくるかも知れないから、以後お見知り置きを」


 瞬間、彼女の目は明らかに敵意の色をさっと映し、私に壮絶な笑顔を向けた。

 ひえええ。目が笑ってないってば!


「ほんと。お人形さんみたいに可愛い方ですね」

「でしょ。可愛いくて、天然に抜けてて面白い」

「ぬっ抜けててって」

 
 確かに迷惑は掛けてるけどっ。



「見てて飽きないところが『お人形さん』だよな」


 瞬間、聖夜さんの右手が伸び、私の右頬を手の甲でゆっくりとなぞった。

 彼の神経質そうな指先が私の口唇をそっと掠めていく。

 切れ長の大きな瞳が甘く、誘うように揺らめいている。



 な。

 なにごとっ!?






.
< 71 / 77 >

この作品をシェア

pagetop