アイドルな王子様
 私のまんまるの目が、更にまんまるになるのが自分でも判る。

 眼をひん剥いて驚く私なんかお構いなしで、聖夜さんの指先は私の巻き髪をくるくると弄っている。


「つきこさんって、無口なところもお人形さんみたい」


 僅かに声を震わせながら、店員の女性はつっけんどんに云ってのけた。


「照れてるんだよ。俺がところ構わずラブラブモードになっちゃうから。ね?」


 『ね?』と小首を傾げてにっこりと微笑む聖夜さんは、本当にべた甘な彼氏のようで。

 なにがどうなってこんな状況になっているのかさっぱり判らないのに、私の頬は正直で一気にぼぼっと点火してしまい、思わず両手で顔を覆った。


 どっ どうしちゃったのおっ 聖夜さんってば!


「真っ赤になっちゃって。ほんと月杏はカワイイな」


 ふっと笑って、彼は私の左手を優しく顔から外し、自分の口唇に引き寄せて、あろうことか掌にキスをした。


 ひゃああっ やめて もうだめ 脳が沸騰しそうっ!

 私、こーいうことに免疫まったくないんだってば!


「―――――――っお料理、詰めさせていただきます!」


 私たちの様子をわなわなしつつ眺めていた女性はそう語尾も荒く云い放ち、私をギッと睨み据えた後、ヒールの音をカンカンと鳴らしてお店の奥へと去っていった。


 うう 誤解よぉ。絶対私たちの関係を誤解してるわ。





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