アイドルな王子様

すました厚化粧

 百貨店の舞台裏ってご存知?

 これでもかってくらいに冷房で冷やされた店内とは打って変わって、地下にある社員のロッカールームはむっと熱気が立ち込めて…おまけに余り良い香りとは云えない。

 ロッカーは数人で兼用しているので、中身はぎゅうぎゅう。

 私は他人の衣服で押し潰された制服を引っ張り出して、素早く着替える。

 勤めるブティックの、ブランドロゴがあちらこちらにプリントされた今期春夏デザインのセットアップ。

 本社がフランスの一流ブランドなので、制服のデザインも年に二回変わるの。

 が、その実ブティックで販売するプレタポルテはフランスやイタリア製だけれど、社員の制服はMade in China。

 これに気付いたときは愕然としたけれど、世の中こんなもんよね。



 ブティックの社員は皆お洒落で洗練されたそつのない素敵な女性ばかり。

 日々、ハードなマヌカン業を自信顔でバリバリこなしている。


 私は未だに判らない。

 何故、私がここに居るのかが。

 競争率のめちゃめちゃ高いこの会社にうっかり受かってしまい、大学卒業と同時に新人研修に放り込まれ、修了と同時に銀座の真ん中にあるデパートの1階にどんと構える店舗に配属されてしまった。


 周りはうちの社員の優秀なお姉さま方と、百貨店側の社員と意地悪なパートのオバネエサマたち。


 そんななか、ちょっとドジな私は毎日ハラハラと申し訳ございません、の繰り返し生活。



 落ちこぼれ社員なのです。



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