花咲く原石
ありがとう、ダイドン。

彼の名を心の中でもう一度呼んでゆっくりと瞬きをした。

時は待ってくれない、シイラにはやらなければいけないことがある。

「…いってきます。」

丁寧に渡した言葉を土の上に置いていく。

立ち上がってもさっきまでの名残惜しさは消えていない、それでも進むことを決めたのだ。

やがて踏み出した一歩は思い出の場所に背を向けさせた。

次の二歩目まで時間がかかったのは気のせいじゃない。

「よし。」

足元の大きな荷物を持ち上げ、難なく肩に掛けて歩き始めた。

開けた場所と、木々との境目あたりに2人の邪魔をしないように待っている男性がいる。

目が合うと優しい笑みを浮かべ、少しだけ距離を縮めるように近付いた。

彼もまたダイドンを慕っていた。

「シイラ。」

彼女の名を呼び微笑む。
シイラもそれに答え微笑んだ。




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