花咲く原石
背後から呼ばれた気がして振り返った。

しかし誰もいない。

今の声は聞き覚えのある、まだ懐かしいとは言いたくない声だった。

毎日聞いた、愛おしそうに呼んでくれる優しいダイドンの声が彼女の名を呼んだような気がする。

ほんの少し歩いただけなのに目はこの暗闇に慣れて、あの開けた場所が眩しく見えた。

ダイドンの土が空からの灯りを受けてキラキラと光っているように見える。

さっきまであそこに居た筈なのに、ここから見るとまるで別世界のようだ。

胸の中の引っ掛かりがなくなり、何かがストンと落ちてきたみたいに納得してしまった。


ああ、もう本当に世界が違うんだ。


そう考えるとやはり切なくなる。

少しの間立ち止まっていたが、シイラは微笑みを残して再び足を進み始めた。

泣かないと決めた約束は守らないといけないのだ。




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