花咲く原石
「貴女がリトと出会う前、私は既に公爵側の追手に遭遇していました。」

そう口にするオーハルの視線の先には昨日怪我をした場所がある。

どこで怪我をしたのか、詳しく聞く前にうやむやになった怪我だとシイラは思い出した。

「彼らの矢に射られた傷です。幸い、かすっただけで私だとも気付かれずに済んだのですが…。」

何をしてでも早急にあの場所を離れなければいけなかった。

そう思うと、リトたちのアジトに行くのは1つの手段だったのに。

完全に焦っていたオーハルはあの時から冷静な判断が出来なくなっていたのかもしれない。

そんな彼の判断に従っていたらとても良い結果になっていたなどと言えなかった。

「シイラが自分で導いた未来です。」

今は心底そう思う。

自分の考えを押し付けないで本当に良かった。

彼女が強い意思を持ち、自分で判断が出来たことに感謝する。

「貴女が1人で歩ける人で良かった。」

安堵した表情は恐怖から解放された喜びよりも、緊張感を残したままの印象が強かった。



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