花咲く原石
相手に対する思いやりを感じさせると同時に、有無を言わせない圧力もあった。

シイラには頷く以外の選択肢がない。

「分かった。ありがとう、おやすみなさい。」

「おやすみなさい、いい夢を。」

そう言ってオーハルはまた作業に取りかかる。

彼が一体何をしているのか分からなかったが、きっと明日の旅が滞りなくいく為の準備に違いない。

何年もダイドンの弟子として働いている彼を見てきたが、真面目に取り組む姿勢にはいつも感心していた。

優しくて、落ち着いていて、ダイドンの次に傍にいてくれる人。

彼は人間だが、ドワーフのことを尊敬してくれていた。

シイラがよく知っている人間はオーハルと、そして幼い頃に亡くなった母親だけ。

よく知っているといってもその記憶のほとんどが父であるダイドンが与えてくれたものだった。

シイラの母親の記憶は、ダイドンとの記憶でもある。

「…静か。」

そう呟いた声は夜の森中へ溶けていった。



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