花咲く原石
この木は小さい頃によく登った家の前に立っていた木によく似ている。

そして浮かぶ映像。

この景色は山菜摘みに出かけた場所に似ている。

また浮かぶ映像。

それはどれも、ダイドンに繋がる記憶ばかりだった。

駄目だ、彼との記憶が溢れてくると涙が出てしまいそうになる。

思い出に振り回されないように思いきり頭を振ると気持ちを切り替える為に前を向いた。

でも、どうやらそれも無駄だったようだ。

シイラの目に飛び込んできたのは前を歩くオーハルの荷物。

そこには家から持ち出した大切な工具がいくつも入っている。

長年シイラと、そして彼女の父親であるダイドンが愛用した工具達。

シイラは工具と共にダイドンの最高の技術を受け継いだ。

勿論、技術の質はダイドンには到底及ばない。

しかし目も感覚もセンスも彼のものをしっかりと受け継いだ自信がある。

小さな頃からずっとダイドンの傍で作業をし、時には彼の背中を見つめ、時には手を貸して、そうやって毎日を過ごしてきた。

それが当たり前だった。



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